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2026.06.06
M&Aその後、半年ーー見えてきたのは「不安からの解放」だった
2025年11月、モノリスコーポレーション・川村工業の全株式が(株)現場共創機構へ譲渡された。それから半年。
譲渡後も、モノリスコーポレーション代表の一人として続投している川村社長にとって、この半年、6か月という時間は彼の中に変化を見せるには十分だった。
「飲み込まれる」ではなく、「つながれる」
M&Aという言葉には、いまだ暗いイメージがつきまとう。強者が弱者を吸収し、名前も文化も消えていく――専門工事業の経営者には、そんなイメージを持つ方も少なくないだろう。
M&Aから半年を迎えた今、改めて川村社長に率直な問いをぶつけてみた。




業界の「遅れ」を、初めて直視した
レガシー産業と揶揄される建設・建築業界。いまだに紙とペンとFAXが”3種の神器”の会社も存在し、電話でのやり取りが主流のままだ。さらには多重下請け構造や、代理店制度など複雑なサプライチェーンが業界全体に根を張っている。若い経営者はテクノロジーを積極的に取り入れようとしているが、旧来の慣習を手放せない経営者層がいまだに幅を利かせているのが現状だ。それでも、規模が小さければ何とか回ってしまうがゆえに、古い商習慣やアナログな業務プロセスが温存されてきた。
当社は、現場共創機構のスタッフが加わってから、バックオフィスが目に見えて変わり始めた。そもそも「バックオフィス」という言葉自体が新鮮に映る業界である。工数管理、見積データの整備、採用・育成の仕組みづくり――中小の専門工事会社だからやっていなかったのではない。「やりたくてもできなかった」ことが、潤沢な資本と大企業レベルの知見によってスピーディに実現されていく。その過程を目の当たりにして、いかに業界全体が仕組みの面で立ち遅れていたかを痛感した。
当社はコンクリート床工事を専門とし、グループには左官業50年の歴史を持つ川村工業を擁する。外国人材の雇用にはいち早く取り組んできた結果、現在では2社合わせて3か国・50名規模の外国人社員が在籍するまでになった。

その管理は、想像以上に煩雑だ。技能実習生から特定技能2号まで、在留資格ごとに異なる手続きと書類が山積みになる。とりわけスリランカ出身の社員は名前が長く、安全書類一枚を仕上げるにも細心の注意が必要になる――長い名前は彼らファミリーの歴史ではあるけれど、現場事務の苦労でもある。そうした管理業務がシステム化されていくと聞いたとき、正直、期待で目の色が変わった。

加速する倒産、業界全体を揺さぶる波
帝国データバンクが発表した2025年度の全国企業倒産は前年度から3.5%増の1万425件と、2年連続で1万件を超えた。このうち「建設業」の倒産は2,041件(前年度比5.6%増)と過去10年で最多を記録。とりわけ中小・小規模事業者は、原材料価格の高騰と人手不足の影響を強く受けている。(出典:ダイヤモンドオンライン/帝国データバンク)








建設投資額の推移から




バブル崩壊から建設投資額が減り続け、「コンクリートから人へ」で追い打ちをかけた建設業界の倒産は、「工事がない」倒産で、仕方なく人も離れていった。
一度業界を離れた職人は簡単には帰ってこない。若者の建設業離れという形でその傷跡はいまなお残り、2025年度の建設業倒産2,041件は、「工事がない」倒産ではなく、「工事はある、しかし人がいない。稼いでも資金が回らない」倒産だ。
建設業界の構造
なぜ投資額が回復しているのに現場は苦しいのか。答えは単純だ。投資額の回復は職人が増えたからではなく、単価が上がったからだ。資材費・労務費・輸送費がすべて高騰し、同じ工事でも以前より高い金額が計上される。つまり業界全体として「同じ量の仕事を、より少ない人数で、より高いコストでこなしている」という構造になっている。機械化・ICTによる生産性向上はまだ限定的で、成果物が一品一様の受注生産である建設業では、製造業のような画一的な機械化が構造的に難しい。そして残りの穴は外国人材が埋めている。


建設投資の主役が民間に移った今、建設業法がいくら改正されても、その効果は公共工事ほど直接には届かない。民間発注者は法の枠内で契約を自由に決められるため、「工期を守れ、残業は自己責任」という慣行がなかなか変わらないのが実情だ。しかし職人の絶対数が減り続ける中、公共工事の労働環境が改善されれば、民間工事は「職人を選ぶ立場」から「職人に選ばれる立場」へと、静かに逆転していくのではないだろうか。
職人が選ぶ現場になれるかどうか――それが、これからの会社の生死を分ける。その問いに正面から向き合うための一つの答えが、仕組みそのものを変えることだ。
M&Aは異次元の出会い
我々のような専門工事会社の職人は高卒が多く、また当社は誰にでも門を開いているため、世間でいう「不良」の受け皿にもなっているので、中卒や高校中退の職人も珍しくない。このような社風の会社に、突然舞い降りてきたエリートたち!それが、現場共創機構の面々である。
慶応卒、東大卒――最初、川村工業の事務所でエリートたちがズラーッと並んでご挨拶して下さったとき、正直、サッカーでいうフリーキックからゴールを守るための「壁」が連想された。そう、この方たちにバトンを渡せたなら、ゴールは守られる!会議を重ねるほどにそれは確信に変わっている。

現場共創機構のグループに入ることで生まれるのは、単なる「傘下」ではない。多業種にわたる企業が横に連携することで、一つの現場をグループの複数社が連携して担えるようになる。その関係は元請け・下請けではなく対等な横のつながりだ。中間コストが発生せず、その分が職人の処遇改善に直結する。小さな会社一社では到底手が届かなかった大企業レベルのシステム、採用力、資本力――それらがグループ全体の共有資産になる。これがスケールメリットの本質だ。
建設業にとって厳しい状況といえる今だから、不安から解放されていることに気付けた。
率直に言うなら、現場共創機構へのグループインは、想像していた「買収」とは、まったく違うものだった。

マラソン型経営からの脱却
「スタートからゴールまで一人で走り切って、ゴールしたら会社もおしまい」川村社長自身がそう思っていた時期もあった。だから、しいて後継者を育てることを考えなかった。
けれども、時代は大きく変わった。「弁当とケガは自分持ち」だった職人が社会保険に加入、週休2日・残業規制などの働き方改革、ものすごい数のハラスメントへの注意喚起….
左官・専門工事業では、経営者一人の存在が会社の存続に直結しているケースが多い。後継者を育てようにも、これから求められる仕事のあり方と、これまでの仕事の進め方には大きな隔たりがある。自分で後継者を育てるのが難しいのならば、最初から経営のプロにバトンを渡した方がいい――川村社長がたどり着いた答えは、シンプルだった。
M&Aから半年が経った今、川村社長はワントップの重荷を降ろし、本来の仕事に向き合っている。会社の名前は変わっていない。職人たちも変わらず現場に立っている。変わったのは、ずっと後回しにしてきた「仕組み」がどんどん構築されていくことと、経営者の「不安」が払拭されたことだ。

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